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Vara s-a sfârsit 夏の終わり/不測の事態

ルーマニア映画 (2016)

学校が6月に終わり、9月から新学期が始まる長い夏休みの真ん中。主人公のミルチャにとって1999年の8月は、誕生日、その数日後には、楽しみにしてきた20世紀最後の皆既日食も見られるという、素晴らしい夏になるはずだった。真面目で、心優しく、頭のいいミルチャは、母にとっては、人生の敗残者のような夫(いつもTVに釘付け)に比べ、可愛くてたまらない希望の星だった。そんな順調なミルチャに、ある日大きな変化が訪れる。人口2万人の町から出たことのない田舎者のミルチャが、首都ブカレストからやって来た クールで破天荒なアレックスと偶然出会い、友達になったのだ。ミルチャは、その風変わりな生き方に感化され、空想力を刺激される。この出会いは、ある意味プラスに働いたが、アレックスが突飛なことを思いつき、それに偶然が重なって、2人をとんでもない事態へと巻き込む。映画は、よくありがちな “青春ほのぼの” から、一気に “スリラー” へと転換する。このスリラーは、アメリカ映画によくあるように、化け物、幽霊、ソンビ、何かの祟りなどでは一切なく、それでいて、並みのスリラーより遥かに怖い。かくして、不測の事態にミルチャの良心は打ち砕かれ、どうしていいか分らない日々が続く。誕生日は、責め苦でしかない。思い余ったミルチャは、下らないことで父に叱られたことをきっかけに、思い切って告白するが、想像力の欠如した父親は真面目に取り合おうとしない。そして、看護師の母は多忙で ほとんど家にいない。切羽詰まったミルチャは、皆既日食が進む中、告白すべく警察に向かう。

この映画では、チェルナボダ(Cernavodă)という人口2万の小さな町のあちこちでロケが行われ、それがグーグルとストリートビューで確認できるという滅多にない機会に恵まれた。そこで、可能な限り確認できる場所を探し、主人公がどのように動いたかを地図上で示してみることにした。各地点での移動情報は、あらすじの中の(地図)の部分をクリックすれば、かなり大きな地図が見られるよう配慮した。全体の地図は、重複することになるが、下にも掲載する。この作業をしていて、この町の道路の維持管理がかなり悪いことに気付いた。舗装が均一でなく、乱雑な補修が目立つ。ここは、ルーマニア国内で唯一の原子力発電所の町。日本なら、そうした町は かなりきれいに整備されているのが普通なのに、ルーマニアではそうはなっていない。最後に、この解説を書いていて気付いたのだが、この映画は珍しいことにYouTube上で、1080pのHD画質で自由に鑑賞できる〔2019年5月5日から現在まで11ヶ月間削除されていない〕。興味のある方は、こちらで→( https://www.youtube.com/watch?v=DvUU0zNV9Gw )。

主役のミルチャ役を演じるのは、ニコラス・ボーホー(Nicholas Bohor)。2000年9月9日生まれ。13-14歳という設定で、実年齢も恐らくそのくらい。アメリカの中学生に比べ、まだ幼い感じがする。『Domestic』(2012)での端役を経て、2作目で主役に抜擢された。3作目(2017)はまた端役なので、少なくとも、子役としてこれ以上の活躍は望めない。

あらすじ

1999年の夏。ドナウ川沿いのチェルナボダ(Cernavodă)の町に住んでいるミルチャ(Mircea)は、TVのニュースに興味津々だ(1枚目の写真)。それは、8月11日に、イギリス南端から始まり、フランス北端、ドイツ南部、オーストリア、ハンガリー、ルーマニアを通って黒海に抜ける皆既日食についての詳しい説明。ルーマニアでは、13:56に西端のAradから20世紀最後のショーが始まり、14:07に首都ブカレストに到着、14:12には黒海沿岸のNeptunに達して終わる〔ミルチャのいるチェルナボダでは14:10頃になる〕。そのあと、タイトルが表示され、オープニング・クレジットの間、ミルチャはひたすら歩き続け、バス乗り場に着く(2枚目の写真)。写真の左側のアーチ橋は、この町でドナウ川から分岐するドナウ-黒海運河(Canalul Dunăre-Marea Neagră)に架かる道路橋。写真の右にある四角い箱のような建物には「理髪店」という看板が掛かっている。黄色の矢印がミルチャ、空色の矢印は理髪師のイリエ。この地点のグーグルのストリートビューが3枚目の写真(クリック→地図の❶)。四角い箱のようなものに看板は付いていないが、あとは完全に一致する。ミルチャは、店の前のイスに座って新聞を読んでいるイリエと親しいので、彼が寄って行くと、イリエは新聞を読むのをやめて、「ミルチカ(Mircică)〔“-ică” が付くと、親しみがこもる〕、元気か?」と声をかける。「元気だよ イリエさん。あなたは?」。「暑さに耐えとる。1954年以来の炎暑だからな」。イリエは、店の中に入って行くと、ミルチャを呼んで1冊の大きな本を渡す。それは、イリエが探していた本で、日食についての解説も載っている天文学の本だ。ミルチャは大喜び(4枚目の写真、矢印は本)。

ミルチャは本を借りてアパートに戻る〔後で分かるが、ミルチャはトゥルースト地区の4階建てのアパート住んでいる〕地図の❷)。母は、夕食の準備をしながら、「どこにいたの?」と尋ねる。「イリエさんのトコ」。母は、小さな食卓にカラトリーを置きながら、「ジェオ」と夫を呼ぶ。「何だ?」。「来て」。ミルチャは自分の席に座ると すぐに本を広げ、母は料理を持ってくる(1枚目の写真)。「それ何?」。「天体図鑑だよ、イリエさんから借りたんだ。前に日食を見た時は、夜みたいに暗くなったんだって」。「素敵ね。お父さんを見てきて」。ミルチャは読むのを中断して居間を覗き、「TV見てる」と教える〔TVの音が聞こえるし、この父親はTVばかり見ているので、ミルチャに見に行かせる必要などない〕。母は、夫をもう一度呼び、それでも来ないので、直接部屋に行って催促するが、しばらく来ない。映画は、一気に食後に飛び、母に電話がかかってくる。その内容から、母は看護師らしいことが分かる。自堕落な父親と、忙しい母親が、あとでミルチャを困らせる。夕食後、父親はまたTVの前に直行。ミルチャは、ハンガリーの隣国らしくルービックキューブで暇つぶし(2枚目の写真、矢印)〔キューブの発明者はハンガリー人〕。翌日、ミルチャは本を持ってイリエに会いに行き、夜に読んだ成果をぶつける。イリエ:「爆発するだと? 爆弾じゃないんだぞ」。「イリエさん、でも、ホントに爆弾みたいなんだ。太陽の中心で核融合が起きてて、熱が放出される。そして、いつか、異常に膨れ上がって爆発するんだ」(3枚目の写真、矢印は本)〔赤色巨星のこと〕。「いつ爆発する?」。「科学者たちは50億年後だって推測してる」〔本が古いので、一時代前の推定値。地球は、赤色巨星の周りで死滅するのでなく、太陽に飲み込まれて蒸発するという計算結果では、滅亡は76億年先。しかし、太陽の光度が10億年ごとに10%上昇しているという見解が正しければ、10億年後には地球上の生命は生存できない〕。そして、その回避策は、他の星系の惑星への移住しかないと書いてあったとミルチャが話すと、イリエは、地球以上の星はないと言った後で、「ロシア人、アメリカ人、日本人は全宇宙を探っておるが、何か見つけたか? ぜんぜんだ」と否定する〔内容は別として、日本が出てくる。ロシアが1番にあるのは旧ソ連圏だから当然としても、ルーマニアの片田舎の町の床屋さんが日本を3番目に上げるのは意外〕

その時、大きな警笛とともにバスが到着する。2人目に降りた少年は、すぐに荷物入れを開け(1枚目の写真、矢印)、手前に置いてあるバッグを勝手に地面に置き始め、係員に制止される。「何してる?」。「自転車」。「待ってろ」。係員は、サイズが大きいので隣の扉も開ける。それを見たミルチャは、親切な子なので手伝いに行く。そして、一緒になって自転車を引っ張り出す(2枚目の写真、矢印)。少年は、手伝ってくれたミルチャに、「すげえやつだな〔英語字幕:You're the bomb, man〕」と言う。「何て言ったの?」。「ありがとよ」。「いいって」。「バイバイ〔Peace out〕」と手を差し出す。意味が通じないので「さよならだ」と言い直し、2人は別れる前に握手する(3枚目の写真)。

ミルチャがイリエの横のイスに座ると、一番最後に重い手荷物を持って降りてきた若い女性が、「ミスリカ(Mirciulică)〔接尾辞の意味は不明〕、手伝ってくれる?」と声をかける。気のいいミルチャは、「さよなら、イリエさん」〔さよなら(la revedere/ラレヴェデレ)の語感が、イタリア語の “arrivederci/アリベデルチ”と似ているので、びっくり。調べてみたら、イタリア語、コルシカ語、ルーマニア語は同じ東ラテン諸語に属していた〕と別れを告げ、女性のもとに駆けていく。そして、特大の袋の片方を持ち(1枚目の写真)、女性の父(?)の店まで運ぶ。2人の姿を見た男性が走って行き、袋を持つと、「3時半のバスだって言ってなかったか?」と訊く。「バス乗り場で1時間も待つと思うの?」(2枚目の写真、矢印はランドマークとしてのアンゲル・サリニー鉄道橋〔後述〕)。この場所もグーグルのストリートビューで確認できた(3枚目の写真、左の点線と2枚目の写真の点線が同じ位置。矢印の鉄道橋もかろうじて見える。映画は望遠、グーグルは広角。印象がかなり違う)(地図の❸)。ミルチャは、そのまま店に入って行く。そして、「グラニタ〔シャーベット状の飲み物〕飲む?」と訊かれ、暑い中の労働行為の当然の報酬だと思って頷く(4枚目の写真、矢印はアップル・グラニタ)。

ミルチャがグラニタを飲みながら階段を登り始めた所で、後ろから、「おい、待てよ」と声がかかる。それは、先ほど自転車を出すのを手伝った少年だった。「助けてくれよ。道に迷っちまった」(1枚目の写真)。暑さで、相当へたばっている。「どこに行きたいの?」。「ジェネラル・ドラゴニナ」。「すぐ近くだよ」。「どこかで間違えたな。4-5年 来てないから」〔15歳前後なので、以前来たのは10歳頃〕。そして、改めて手を出し、「アレックス」と自己紹介する。アレックスは、喉が乾いていたので、グラニタの飲み残しをもらう。空のプラスチックのカップとストローは、そのまま道路にポイ捨て。「どっち?」と訊き、階段道だと知り、うんざり。アレックスは、階段の部分はミルチャに手伝ってもらい、自転車を運び上げる(2枚目の写真)。この地点のグーグルのストリートビューが3枚目の写真(階段道は左端)(地図の❹)。ここで大きな疑問が湧く。なぜミルチャは、店❸の後、自宅❷と正反対の方角に行ったのか? 暑い盛りの上、かなりの坂道なのに。

階段道の後も急坂が続く。ミルチャは、自転車を押しているアレックスに、「どこから来たの?」と訊く。「コレンティナ、ブカレスト」。「どっち?」。「いいか、コレンティナってのはブカレストでも超カッコいい地区なんだ。一度もブカレストに来たことないのか?」。「ないよ。いつまで、こっちにいるの?」。「さあな。親爺が来るまでだ。そしたら、海辺〔黒海〕に連れてってくれる」。「今は、どこ?」。「イタリア」。2人は、目的の地区に着く。家はすぐに見つかる(地図の❺)。ただし、アレックスが、門のところで「お祖母ちゃん」と呼んでも、耳の遠い祖母は出てきてくれない。門には鍵がかかっている。仕方なく、アレックスは塀を乗り越えて庭に入り、ミルチャに自転車を持ち上げてもらう(1枚目の写真)。ミルチャが帰ろうとすると、「寄ってかないのか?」と訊かれる。「ううん、帰るよ」。「いいから、来いよ」。その言葉で、ミルチャも塀を乗り越える。そこから、玄関まではすぐ。玄関で、ちょうど、庭に出て来た祖母と鉢合わせ。祖母は、「まあ、坊や、どこにいたの? ずい分待ったのよ」と言い、両頬にキスをする〔挨拶もイタリアと似ている〕。「こんなに大きく、ハンサムになって!」。しかし、長い髪に気付くと〔後ろで、女性のように髪を束ねている〕、口調が変わり、「長い髪なのね?」と不満げに言う。「ファッションさ」。後ろにミルチャの姿を認めると、口調はもっとすげなくなる。「それ誰?」。「友達のミハイ」。「ミルチャ」。「そうだった」。祖母は、糾弾するような口調で、「ミルチャ、誰?」と訊く。「ミルチャ・イオネスコ」。「伯母さんの話じゃ、1人で来るはずよね?」。「違うよ、お祖母ちゃん。ミルチャは、この近所の子だよ」。「どこだい?」。ミルチャはトゥルースト地区の4階建てのアパート住んでいると話す(地図の❷)。地図の最下部右端にある▲印は、チェルナボダ原子力発電所4号炉(1985、その右下に3-1号機が並ぶ)。わずか1.5キロしか離れていない。

祖母の家で荷物を置いた後、2人はドナウ川沿いのチェルナボダ港湾局のテラスに行く(地図の❻)。アレックスは、ミルチャがヒップ・ホップのことを、「知らない」と答えたので、聴いていたヘッドホンをミルチャの両耳にはめてやる(1枚目の写真、矢印はヘッドホン)。ポケットに入れていたカセットテープレコーダーも渡す。そのあと、アレックスは、ミルチャの前で、自転車の曲乗りを披露する。ミルチャは、「1日中聴いててもいいや」と、音楽が気に入る。そのあと、2人は、荷物を運んだ女性の店に行く(地図の❸)。「また、飲みに来たの?」。「グラニタ2杯だよ」。「アップルよね?」。待っている間に、アレックスは、「なあ、ここには、マクド〔マクドナルド〕あるか?」と訊く(2枚目の写真)。ミルチャは、Noの動作。「KFC〔ケンタッキーフライドチキン〕、BK〔バーガーキング〕は?」。「それ何?」。「ここだと、飢えちまうな」。アレックスは、2人分を払う。グラニタを飲み終わって薄暗くなった頃、アレックスは、「ここは、何で どこもかしこも寂れてるんだ?」と訊く。「さあ。でも、静かだよ」。「静か? 墓場みたいだぞ」。ちょうど、分岐点に来たので、ミルチャは、「僕、こっちに行くよ」と言う(3枚目の写真)。アレックスは、また握手し、「明日も、来るか?」と訊く。「もちろん。何時?」。「さあ。起きたらいつでも。2時とか」。2人は、もう友達同士だ。最後の場面の背後に映っている大階段は、グーグルのストリートビューの4枚目の写真の矢印(場所は、地図の❷のすぐ左)。階段を登った所が団地になっていて、ミルチャのアパートも その中にある。

翌日、ミルチャはアレックスを連れてグランドに行くと、サッカーで遊んでいる友達に「一緒にやっていいか?」と訊く。友達は、ジコという子に「入れていいか?」と声をかける。しかし、アレックスの変な髪を見たジコは、端から嫌って、いきなり腕で押し返し、アレックスが抵抗すると、今度は押し倒して殴る。ミルチャが止めに入ると 一旦は止めるが、アレックスが立ち上がると 顔を思い切り殴る。アレックスはしばらく立ち上がれない(1枚目の写真、矢印はアレックス)。唇から血を出しながら立ち去るアレックスに、ジコは、「髪を切らない限り戻ってくるな」と手厳しい。その後、2人は、背後に風変わりな巨大橋が見える場所に行き、話し合う。「痛い?」。「どこが? あんなのケンカじゃない」〔無抵抗と言えるほど弱かったので、負け惜しみ?〕。そして、「どっちみち、親爺がすぐに来て、海に連れてってくれるしな」と言う。「戻ってくる?」(2枚目の写真)。「何のために? あの負け犬どもと一緒に遊ぶためか? ヤだな。ブカレストで、まともな連中と遊んだ方がいい。君も、時々、来いよ」。「親が許してくれないよ」。「なぜ? 子供だから? 幾つなんだ? 14か?」。「あと数日で」。「14ならIDが持てる。痛くも痒くもない。マクドに行こう。BKに連れてってやる。楽しいぞ」。「君のママ、何て言うかな?」。「お袋はいない」。「じゃあ、誰と住んでるの?」。「親爺の姉貴だ。いつもはいないけどな。3日か4日ごとにやって来て、『元気?』、『うん』、『お金はある?』、『ううん』って調子さ」〔アレックスの “独立志向” は、こうした “放任主義” から来ている〕。2枚目の写真の背後のシルエットが気になったので調べてみた。それが、3枚目の写真。石でできた立派な橋門の向こうに、先の尖った形が印象的だ。これは、アンゲル・サリニー(Anghel Saligny)鉄道橋(地図の❼)といい、1895年に完成した当時、ヨーロッパ大陸で最も大きなトラス橋だったとか(橋長1662メートル、橋名は設計者の名前)〔世界一は、1890年にスコットランドに完成したフォース鉄道橋(橋長2530メートル)で、こちらは世界遺産〕     

その日、ミルチャは、初めてアレックスを自分のアパートに連れて行く。母は、ドアが閉まるのを聞き、「ミルチャ、いったい何時だと思ってるの?」と、帰宅が遅くなったことを咎める。ミルチャは、アレックスに、「靴、脱いで」と言う〔ミルチャのアパートでは、全員が玄関で日本のように靴を脱ぎ、室内はスリッパで過ごす。ただ、それがルーマニアでどの程度 “習慣化” しているのかは不明〕。2人が靴を脱いでいると、そこに母が顔を出し、アレックスに気付く。アレックス:「今日は」。母:「ええ。あなた誰?」。「アレックス」。ミルチャが、「友だち」と補足する(1枚目の写真)。「この付近の子じゃないわね」。「ブカレストから来たんだ」。「祖母の家に来たんです」。「遅くなるのご存じなの?」。「いいえ」。「電話をかければ?」。「耳が遠いんです」。母は、ミルチャに、「もう行かないと。当直なの」と言う。ミルチャは、アレックスを自分の部屋に連れて行く。アレックスは、「ラジカセあるか?」と要求し、ミルチャは居間にある父のラジカセを持ってくる。アレックスは、すぐに持参のカセットを入れ、非常識なことに、大音量にする。ミルチャは慌てて音量を下げ、カセットを取り出して隠す〔テープが はみ出てしまう〕。しかし、すぐに母がドアを開け、ミルチャに対し、「一度しか言わないわよ。あんな汚い音楽、二度とかけないで」(2枚目の写真)。母は、アレックスを “要注意人物” とみなす。アレックスは、母親の怒りは “蛙の面に水” だったが、テープのはみ出しに対してはミルチャに文句を言う。

翌日、2人は、「インターネット&ゲーム」と表示された建物に入る。中にはパソコンが並んでいて、そこで大人がゲームで遊んでいる。アレックスが受付で半時間分の料金を払い、ミルチャをパソコンの前に座らせ、操作方法を教える。ミルチャは、アクション・ゲームにすぐに慣れ、初体験をエンジョイする(1枚目の写真)。2人は、一昨日訪れたチェルナボダ港湾局のテラスに行き(地図の❻)、そこでアレックスは “自転車に乗れないミルチャ” に、乗り方を教える(2枚目の写真)。この場所のグーグルのストリートビュー(船上)は3枚目の写真(矢印)。しかし、10メートルほど走って停止し、両手を挙げて喜んだあと、向きを変えて漕ぎ始めるが、最初の時と違い支えてくれたアレックスがいないので、転倒してしまう。アレックスがすぐに助けに行くが、右足の膝を擦りむいて悲鳴を上げる(4枚目の写真)。

アレックスは、ケガをしたミルチャを祖母の家まで連れて行く。自転車も転倒した時に壊れてしまったので、乗っては行けない。映画だと、瞬時に移動するが、地図上では約1キロもあり、しかも、かなりの登り坂(地図の❺)。歩いて行くのは大変だったことだろう。アレックスは、ミルチャを食卓のイスに座らせると、消毒用アルコールを持ってきて、丸めたティッシュかコットンにしみ込ませたものを渡す。ミルチャは、それを傷口に当て、思わず悲鳴をあげる(1枚目の写真)。次のシーンでは、傷口に包帯も何も巻かない状態のミルチャが、イリエに頼んで、壊れた自転車を直してもらっている(2枚目の写真)。祖母の家から、約1.1キロ。今度は下りだが、それでも相当な距離だ(地図の❶)。イリエは、自転車を元通りに修理してくれる〔お客が1人来るが、修理のためにしばらく待ってもらう〕。ミルチャは、「どうもありがとう、イリエさん」とお礼を言うが、アレックスは、自転車の調子を訊かれて、「サイコー」と言っただけで、感謝の言葉はゼロ。

その後、2人は 先日の階段道まで戻る(0.8キロの登り)(地図の❹)。この時、ミルチャの右膝には包帯が巻かれているが(1枚目の写真)、いつ、誰がしたのだろう? アレックスは「自転車に乗ろうぜ」と言うが、ミルチャは、何も言わない。「おい、怖いのか?」。「怖くない。乗りたくないだけ」。「そんなの、ただの擦り傷じゃないか」。ミルチャは、「別のことをしよう」と提案する。「何だ?」。「泳ぐのは、どうかな?」〔傷はそんなに軽くないのだが…〕。アレックスが賛成すると、「他の子も誘おうよ」とエスカレート。「誰?」。「女の子。イオナだよ」。「君の女の子か?」。ミルチャが黙っているので、「そうか。で、キスしたか?」と笑いながら訊く。「まさか」。「なら、一緒に何するんだ?」。「読んだり、話したり」。「それだけ?」。「行こうよ」。次のシーンはドナウ河畔(2枚目の写真) 。後で、ミルチャは場所を訊かれて、橋の向こう側と答える(上流側)。この場所のグーグルのストリートビュー(船上)は3枚目の写真(地図の❼の○印の辺り)。3人は水着で川に入り、ミルチャが、「見てて」と言って水に潜る(4枚目の写真)。映画の中での潜水時間は26秒だが、実際にはもっと長かったのかもしれず、2人は溺れたのではないかと心配する。

水浴が終わると、ミルチャは、ドナウ川沿いの高台を歩き(1枚目の写真、場所不明)、2人を製粉所の廃墟に連れて行く。イオナは、「製粉所じゃないわよね」と言い、「ミルチャ、私、行かないわ。怖いもん」と反対する。そして、目の前に廃墟が現れる(2枚目の写真)〔この映画で、一番重要な場所〕。中に入って行ったのは、2人だけで、イオナは外で待っている。ミルチャは、木の簡単な橋を渡って、下に連れて行く(3枚目の写真)。

そして、あちこち見て回るうち、アレックスは床に大きな鉄板があるのに気付き、少し開けてみる。「臭いな!」。「閉めろよ」。「調べてみようぜ」。そう言うと、アレックスはもう一度 鉄板を上げる(1枚目の写真)。ミルチャ:「真っ暗だ。きっとネズミがいる」。「何もしやしないさ」。「僕は、入らないよ」。「好きにしろ」。そう言うと、アレックスは 鉄板を反対側まで倒し〔穴が剥き出しになる〕、ハシゴを降りながら、「連続殺人だ」と不気味そうに笑う。ミルチャが心配して、「アレックス?」と呼びかけると、首だけ出し、「降りてこいよ」と誘う(2枚目の写真、矢印はアレックスの頭)。ミルチャは、仕方なくハシゴを慎重に降りる(3枚目の写真)。怖がっているミルチャを脅してやろうと、アレックスが、「ネズミだ!」と言うと、ミルチャは悲鳴をあげて飛び退く。アレックスは、ミルチャの臆病さを笑う。廃墟の1回目は、ここまで。

その日、遅く帰宅したミルチャは、母に「どこにいたの?」と訊かれる。「外だよ」。「外? 外のどこ? お父さんが団地の周りに探しにいったけど、いなかったって」。そして、ミルチャの首にかかっているヘッドホンに気付き、「それ何?」と尋ねる。「アレックスに借りたんだ。明日まで」。「また あの汚い音楽を?」。そして、ミルチャの帽子を取ると、髪の匂いを嗅ぐ(1枚目の写真)。「ドナウ川に行ったのね? 一人で行っちゃいけないって知ってるでしょ」。「一人じゃないよ」。「誰と行ったの?」。「友だちだよ」。「あの子なのね!」。大きな声に、TVを見ている父親から、「どうかしたのか?」と声がかかるが、ミルチャが橋の向こうで泳いでいたと話すと、TVに専念したい父は 浅いからいいと問題にしない。それでも、母は、①窪みや早瀬がある、②帰宅が遅くて死ぬほど心配したと言い、「他の子には、門限なんかないよ」という抗弁を無視し、③アレックスとの付き合い禁止、④明日の外出禁止を言い渡す。翌朝、起きてきたミルチャは、冷蔵庫の中を見た後、扉を締めずに、水道をひねってコップに水を入れる。それを見た父は、「冷蔵庫のドアは締めろと何度言わせるんだ!」と叱る。「何か食べたかったから」。「水を飲んでるじゃないか!」(2枚目の写真)。「あとで 食べるつもりだった」〔こうした、優柔不断な態度が、あとでミルチャを危機に陥れる〕。父は、冷蔵庫を締めると、「家から出るな。お母さんはまだ怒ってるぞ」と言い、仕事に出かける〔母は、とっくにいない〕。自分の部屋に戻ったミルチャは、しばらくベッドで横になるが(3枚目の写真)、つまらないので、禁を破って外に出て行く〔両親は不在なので、出入り自由。あとは、良心の問題。ミルチャは親切だが、良心は弱い〕

ミルチャは、アレックスの祖母の家に行くが、「おはよう、アレックス、いますか?」と訊くが、「いないよ」。「どこにいるか知ってますか?」。「さあね。今朝、ドアを叩きつけるように出てってから、戻ってこない」と、不機嫌に答える(1枚目の写真)。ミルチャは、①インターネット&ゲームの店、②チェルナボダ港湾局のテラスを見た後、グラニダの店の近くにある建物の2階のバルコニーに上がる(地図の❽)。アレックスは、3つあるテラスの真ん中にもたれて、ぼんやりと町の全景を眺めていた(2枚目の写真)。この場所のグーグルのストリートビューは3枚目の写真(矢印はアレックスのいるテラス)。「あちこち探したんだよ」。「彼、来ないんだ」。「誰?」。「いつも、こうなんだ。来るって言ってて 来ない。休みが取れない。いつだって、バカみたいに待ちぼうけなのさ」。「ママも、イタリアなの?」。「誰?」、「君のお母さん。いないって言ってたよね」。「離婚したんだ」(4枚目の写真)。「もう、話さないの?」。「するけど、ごくたま」。そして、「他のこと話そうぜ」。アレックスは、ミルチャを連れてインターネット&ゲームの店に行き、ミルチャそっちのけでゲームに打ち込む。そして 夕方になり、ミルチャがヘッドホンを返そうとすると、「しばらく持ってろよ」と言う。ミルチャは、自分の “不在” がバレる前に家路につく。

その日の夜遅く、アレックスがミルチャのアパートの玄関ドアをノックする。母がドアを開けると、「今晩は、ミルチャいますか?」と訊く。母は、相手が “要注意人物” なので、「いいこと、あなたが、ブカレストでどう育てられたかは知らないけど、もうすぐ10時なのよ」ときつい言葉をぶつける。「お願い、2分だけ」。「今は午後10時で、ここはちゃんとした家庭なの。分かる? 気が向いた時にふらりとやって来ないで。それに、息子の頭にバカな考えを吹き込むのもやめてちょうだい。一日中あなたとぶらぶらするより、他にもっとすることがあるの。分かった?」。これは、絶縁宣言に等しい、きわめて厳しい言葉だ。その時、妻が応対に出てドアを閉めた切り長い時間が経つので、夫が何事かとドアを開ける。アレックスは、救いの神とばかりに、「今晩は、ミルチャと話せます?」と頼み込む。「こんな時間に?」。「長くかかりません、お願いです」。父は、「ミルチャ」と呼ぶ。パジャマ姿のミルチャは、ドアのところでアレックスの顔を見るなり 笑顔になる(1枚目の写真)。父は、アレックスを中に入れるのではなく、ミルチャを外に出す〔制限時間5分〕。2人は、階段の踊り場近くまで降りた所で座る。「聞いてくれよ。いいこと思いついたんだ」。「何?」。「俺を誘拐して欲しい」。「何だって?」(2枚目の写真)。「俺を誘拐し、親爺に手紙を送って 金を要求するんだ。そしたら、海岸やマクドに行こう。自転車でもコンピュータでも、君の好きなものが買える。やるか?」。「僕は、何するの?」。「俺を誘拐したようにみせかける。次に、誘拐したぞって手紙を送って 金を要求する。それだけさ」。「なぜ、そんなことするの?」。「だってよ… 面白いじゃないか。何を気にしてる?」。「もし、僕らを信じなかったら?」。「ありえんな」。「警察に通報したら?」。「しないさ。何を苦にしてる? 『マズいことしたら、息子は始末されるぞ』って、書けばいい」。「それってヤバいんじゃないの?」。「何がヤバいんだ。まさかの時には、シラを切って、冗談だったと言えばいい」。「どうかな。ちょっと考えてみないと」。その言葉に、アレックスは、「ビビると思ったぜ」と見下して帰っていく(3枚目の写真)。ベッドに戻ったミルチャは、ヘッドホンでヒップ・ホップを聴きながら、どうしたらいいか考える(4枚目の写真)。

翌朝、ミルチャは坂を登ってアレックスの祖母の家に向かう(1枚目の写真、矢印は映画冒頭のバス停の上にあった河を跨ぐアーチ橋)。この場所のグーグルのストリートビューは2枚目の写真(左の点線と1枚目の写真の点線が同じ位置。矢印のアーチ橋もかろうじて見える。映画は望遠、グーグルは広角。印象がかなり違う)(地図の❾)。ここは、以前二度出て来た階段道のすぐ上で、普通の道路になっている。祖母の家(地図の❺)に着いたミルチャは、ドアを開けたアレックスに、「手紙を書きに来た」と話す。「マジで?」。「お祖母さん、家にいる?」。「教会だ」。「ちょうどいい」。次のシーンでは、ミルチャが、手紙に使用する単語を新聞から切り取り、アレックス渡している(3枚目の写真、黄色の矢印は新聞の切り抜き、空色の矢印は切り取った単語を貼り付けた手紙)。性格がずさんなアレックスは、「手で書いちゃダメなのか?」としびれを切らす。「プロみたいに書けるぞ」。「子供の字だとバレちゃうよ」。

その後、2人は、道路橋につながる高架部分の下を歩きながら(1枚目の写真)、手紙がイタリアに届くまでの日数について議論する。この場所のグーグルのストリートビューは2枚目の写真(赤の矢印は、3枚目の写真の赤いフェンス、黄色の矢印は3枚目の写真の階段)(地図の➓)。アレックスは、ミルチャがあまりに細部にこだわり、警察心配症であることに呆れ、何とか安心させようとする。

そして、いよいよ、手紙に入れるための “誘拐されたことの証拠写真” の撮影の段階に移る。2人ともインスタントカメラを持っていないので、イオナに借りることに。ただ、彼女はすんなり貸してくれた訳でなく、写真を撮る間だけ貸すだけで、その前後は自分で持っていると主張する。そこで、3人は、撮影現場の製粉所の廃墟まで一緒に行く。その途中の映像が1枚目の写真(黄色の矢印は特徴的な送電用の双塔、赤の矢印はクレーンなどの港湾施設)。まず、この双塔だが、チェルナボダ港湾局の北800メートルの地点からドナウ川の下流を見たグーグルのストリートビューが2枚目の写真。ここには、黄色の矢印で示したように、2キロ北に特徴的な送電用の双塔が建っている。ところが、この地点の北には港湾施設は一切存在しない。クレーンなどがあるのは、チェルナボダ港湾局のすぐ北にあるチェルナボダ港のみ。従って、1枚目の写真は、港湾局の北東の丘の上から、手前にチェルナボダ港を入れ、遠くの送電用双塔が近くにあるよう望遠レンズで撮影したものと推察できる(地図の❻の○印の辺り)。ただし、この推測は、最初に製粉所の廃墟を訪れた時のドナウ川の全景写真とは合致しない。

ミルチャは、イオナに “どこに行く” か教えていなかったので、途中まで歩いたところで、「ねえ、どこまで行くの?」と訊かれる。アレックス:「来いよ、クールだぞ」。イオナは、その言葉で立ち止まり、「いいこと。どこに行くか教えないなら、回れ右して帰っちゃうから」とすねる。ミルチャは、「ホラー写真コンテストに応募するんだ」と嘘を付いて説得する。アレックスは、廃墟に入って行き、鉄板を開けて地下に降りて行く(1枚目の写真)。廃墟の外では、中に入ろうとしないイオナに、ミルチャが、「お願い。5分で戻ってくるから」と頼む。「約束、ちゃんと守る?」。「約束する」。「計ってるわよ」。「5分だ」。イオナは、ようやくバッグからカメラを取り出してミルチャに渡す〔友達に対して、あまりにも神経質すぎると思うのだが…〕。ミルチャは、「ありがとう」と言って受け取ると、カメラを首に掛け、ハシゴを降りる(2枚目の写真、矢印はカメラ)。下に降りたミルチャは、ハシゴのそばの柱にアレックスを座らせ、両手を柱の後ろで縛り、次いで、両脚を膝下で縛る〔ロープではなく布を使用〕。さらに、持ってきた赤い塗料をアレックスの顎から鼻にかけて、殴られて血が出たように塗る(3枚目の写真)。さらに、束ねてあった髪をほどいて顔にかける。そして、まず1枚撮影。しかし、「ダメだよ、何か嘘っぽい。もっと怖がらないと」と注文をつける。ここで、5分が経過したらしく、「ミルチャ」と呼ぶ声が聞こえる。ミルチャは、それには返事せず、別の布を取り出して丸めると、アレックスの口に押し込む。「ミルチャ!」。返事せずに カメラを構え2度目の撮影(4枚目の写真)。

「ミルチャ、すぐ来て!」。この命令に、ミルチャは、「待ってて。すぐ戻るから」とアレックスに言い、大急ぎでハシゴを登る(1枚目の写真)。走ってカメラを持って行くが、イオナは怒って廃墟から出て行くので、「イオナ待って! お願い、待って!」と追いかける。イオナは、カメラを取り上げると〔撮影済みのプリントは、取り出してミルチャのポケットに入っている〕、「約束したじゃないの」と責める(2枚目の写真)〔呼ばれても、返事をしなかったミルチャが悪い〕。「許して」。そこに、グラニタを売っている店の主人が運悪く乗り付け〔危険な廃墟を調べにきた役所の技師を乗せている〕、2人がいるのを見咎めて「こんなとこで何してる?」と詰問する(3枚目の写真)。イオナ:「写真を撮ってるの」。「ここで? いつ屋根が落ちてきてもおかしくないんだぞ?」。そして、2人を車に乗せようとする。

ミルチャは、「歩いていくよ」と乗るのを拒否するが、「歩いちゃダメだ。雷が近づいてるのが見えないのか?」と強制させられる。「乗らない」。「何を言ってる?」。「乗らない。強制なんかできないよ」。「何だと? 何て奴だ。ガタガタ言うんじゃない」と腕を引っ張られる。「忘れ物があるんだ!」。「何だ?」。「バックパックだよ!」。そう言うと、廃墟の中に走って行く(1枚目の写真)。主人は後を追う。ミルチャは、地下室を通り越して奥に逃げ込むが、開いたままの鉄板を見つけた主人は、「誰が開けたんだ? 首でも折ったら…」と言いつつ(2枚目の写真、矢印はミルチャ)、鉄板をバタンと閉めてしまう。その音に、ミルチャは、「ダメだよ!」と言い走って戻るが、その時、大きくつまずく(3枚目の写真、黄色の矢印はつまづいたミルチャ、青い矢印は閉じられた鉄板)。ミルチャは派手に転倒し、痛くて一歩も歩けなくなる。そして、廃墟から担がれて出る。イオナは、「ミルチャ、どうしたの?」と訊くが、ミルチャは痛くて唸るだけ(4枚目の写真)。代わりに主人が「足をやられたんだ」と教える。

ミルチャがアパートに担ぎ込まれた時、運良く看護師が帰宅していて、さっそく痛さに呻くミルチャの足を調べる。結果は骨折ではなく捻挫。ただし、両手で立ち上がろうとしても、肘掛け椅子から痛くて立てないほどの重症だ。ミルチャは、父に抱かれてベッドまで運ばれる。父は冷やすための氷を取りに行き、母は濡れた服を脱がせようとする〔車から出る時、雷雨で濡れた?〕。「何するの? やめてよ」〔ポケットに写真が入っている〕。「風邪ひきたいの?」。「自分で脱ぐ」。ミルチャは、母がいなくなると、急いで2枚の写真をヘッドボードとマットレスの隙間に隠す(2枚目の写真、矢印)。真夜中になり、アレックスを助けにいかなくちゃと思ったミルチャは、ベッドから必死に立ち上がり、玄関のドアを開けようとするが、真っ暗なのでうまくいかない〔照明を点ければ見つかる〕。そのガタガタいう音で、父が起きてくる。明かりを点けてドアを点検した父は、外に怪しい者がいないことを確かめ、戻ったところで、キッチンで水を飲んでいるミルチャを見つける。そして、音は息子のせいだと安心し、「歩けるようになったか?」と訊く。ミルチャは、両手で壁を押さえて何とか歩くが、見かねた父がサポートする(3枚目の写真)。

翌日、びっこを引きながらミルチャが玄関から入ってくる。医者でレントゲンを撮ってもらい、骨折していないか確認をしたのだ。テーブルで遅い朝食をとりながら、ミルチャは、「いつまで中にいなくちゃいけないの?」と尋ねる。「2・3日ね。何か食べたい料理でもある?」。ミルチャは、アレックスのことが心配で、頭を抱える(1枚目の写真)。日中、1人でアパートに残されたミルチャには、窓の外を見るか、ベッドで絶望に浸るかしかない。夜になり、母が戻ってきて、足の包帯を巻き替える。「前より、痛くなくなった?」。「うん」。「2・3日で、外に出られるわ。日食の前には良くなってるわね。きつく巻き過ぎた?」(2枚目の写真)。ミルチャは心労のあまり返事もできない。母は、溜息をつき、「寝なさい」と言い、お休みのキスをする。

翌日。1人だけになったミルチャは、試してやろうと、玄関まで行き、サンダルを手にすると(1枚目の写真、矢印)、包帯をした足を、サンダルのマジックテープで固定する。玄関から出て、ドアに鍵を掛け、階段を5段下りたところで限界に達する(2枚目の写真)。やっとの思いで玄関まで戻ったミルチャは、何とかイオナに頼めないかと電話をかけるが(3枚目の写真)、出かけていないと言われる。

何日後かは不明だが、何とか歩けるようになったミルチャは、アレックスの祖母の家に行く。距離は約2キロ。途中からは急な登り。門越しに、狭い庭に出ていた祖母に、「お早う、アレックスはいますか?」と尋ねる。「ブカレストよ」(1枚目の写真)。「いつ帰ったんですか?」。「1週間前」。「1週間前なら、ここにいたよ」。「何の用だい? あたしゃ、忙しいんだ」。「アレックスと話したい!」。「いないんだよ。つんぼかい?」。本当に感じの悪い祖母だ。そのあと、ミルチャは遠い道のりを廃墟まで歩いて行く〔どこにあるか分からないが、かなり遠いことは確かなので、よく歩けるものだと感心する〕。ところが、製粉所に着いてみると、様子が全く異なっている。入口にはフェンスが置かれ、唯一の入口の横には監視小屋まで建っている(2枚目の写真)。ミルチャは、フェンスの下から潜り込み、監視員が小屋の中に入った隙に、ドラム缶のところまで前進。そこで監視員が小屋から出て来たので、酒ビンを持って外を向いた時に(3枚目の写真)、建物の中に忍び込む。ところが、地下室のあった場所まで行くと、鉄板は撤去され、開口部は床下10センチくらいまで砂利が充填されていた(4枚目の写真)。

ミルチャは、開口部の枠内に入り、砂利を掘り返しながら、「アレックス!」と何度も叫ぶ(1枚目の写真)。その声を聞きつけた監視員が、「そこで何してやがる!」と飛んできて、ミルチャを捕まえる(2枚目の写真)。そして、「この、クソガキめ!」と怒鳴り、ミルチャを建物から外に出す。ミルチャは、連行されながら、「男の子が、あそこにいたんだ!」と叫ぶ。「どんなガキだ?」。「アレックスって子だよ。生き埋めにされた!」(3枚目の写真)。「ママとパパは、お前がここにいるって知ってるのか?」。「あそこに、埋まってるんだ!」。「今度また来やがったら、足をへし折ってやる! 分かったか?」。

アパートに戻った頃は、外はもう真っ暗。しかし、心の整理のつかないミルチャは、玄関の前の階段に座って すすり泣く(1枚目の写真)。しばらくして、玄関ドアを開けて中に入ると、いつも通り、父はTVを見ている。そして、「こんなに遅くまで何してた。お母さんが当直でラッキーだったな」と言う。ミルチャが、食堂をパスして部屋に行こうとしたので、「何か食べろ」と声をかける。「お腹空いてない」。ミルチャは、真夜中になっても眠れないので、スタンドを点けると、隠してあった写真を取り出し、じっと見つめる(2枚目の写真)。翌朝、祖母の、「1週間前」という言葉に一縷(る)の望み託したミルチャは、イリエに会いに行く。「訊きたいことがあるんだけど」。「続けて」。「ブカレストから来て友達になったアレックスのこと覚えてる?」。「髪の長い奴だな。それがどうかしたか?」。「最近、姿見た?」。「いいや」。「ブカレスト行きのバスに乗ったのかも」。「いいや。なぜだ?」。最悪の返事に、「訊いただけ」。「黙って帰ったんじゃないかって? ブカレストの奴らってのは、そんなもんだ」。最後の望みを絶たれたミルチャは、部屋に戻ると、アレックスのヘッドホンでヒップ・ホップを聴き続ける。次のシーンでは、ミルチャがアパート近くの原っぱに行き、以前、アレックスをボコボコに殴ったジコに、「アレックスを見たか?」と訊く。「誰のことだ?」。「アレックス、ブカレストから来た僕の友だち」。訊き方が荒っぽかったので、ジコは、「何だ、その口のきき方は」と言ってミルチャの胸を突く。既に心痛で頭にきていたミルチャは、ジコに殴ったり蹴ったりの暴行を加える〔ジコがアレックスにしたより酷い〕。そして、全員に、「誰か、アレックスを見たか?!」と訊くが、返事は「No」。

ミルチャの誕生日。親戚の家族が集まる中、ミルチャはソファにうつむいて座ったまま。プレゼントにポロシャツをもらい、元気なく立ち上がって受け取ると(1枚目の写真、矢印)、一応着てみるが〔2サイズくらい大きい〕、嬉しそうな顔はしないし、すぐ脱いで袋に詰め込むと、またソファに座り込む。部屋中に軽快な音楽が流れ、集まった5-6人の子供たちは踊っているが、ミルチャは座ったままだし、一緒に踊ろうと手を取られても(2枚目の写真)、一度は手を引っ込め、2度目の時は、立ち上がって自分の部屋に閉じ籠もる。母が、「いらっしゃい、ケーキ 切るわよ」と明るく話しかけると、「すぐ行くよ」と力なく答える。「どうかしたの?」。「別に」。「『別に』って、どういう意味?」。母は、ミルチャの横に座る(3枚目の写真)。「あなたの、ブカレストの友だち。なんて名前だった?」。「アレックス」。「そうそう。パーティに呼ばなかったの?」。ミルチャは何も答えず、下を向く。「なぜ? ケンカしたの?」。下を向いたまま。「ミルチャ… 何でも話してちょうだい」。ミルチャは、打ち明けたくないので、「ケーキを切ろうよ」と立ち上がり、母を残して部屋を出て行く。しばらくして、照明が消され、14本のロウソクに火の点いたバースデーケーキを持った母が入ってきて、ミルチャの前に立つ(4枚目の写真)。2人を囲んだ全員が歌って誕生日を祝う。ミルチャが元気を振り絞って吹き消すと、拍手が起こり、父が両方にキスし〔これも、イタリア的〕、プレゼントを渡す。紙を破ると、中にあったのは、アレックスから借りてまだ持っているのと同じカセットテープのヘッドホン。母:「もうこれで 借りなくて済むわね」。父:「気に入ったか?」。アレックスを強く思い出させるプレゼントに、ミルチャは言葉もない。皆が、切り分けたケーキに寄っていく中で、アレックスはその場に立ち尽くす。

同じ日か、別の日かは不明。ミルチャが冷蔵庫を開け、中を覗いていると、そこに父が入って来て、「お母さんは出かけたか?」と訊く。「半時間前」。ミルチャが冷蔵庫をしっかり閉めずに部屋を出ようとすると、父が、「TVの音を下げろ。頭が割れそうだ」と命じる。ミルチャが居間に行き、父が振り返ると、冷蔵庫が閉まっていない。そこで、「ミルチャ、すぐ来い」と命じる。「冷蔵庫のドアを閉めろと、何度言ったら分かるんだ?」。「だけど、TVの音を下げろと言ったじゃない」。「一度に両方できんのか?」。アレックスのことで頭が一杯だったミルチャは、限界に達して泣き出す。父は、同情せず、ますます怒っただけ。「返事をせんか!」(1枚目の写真)「それとも、わざとすねてるのか?」。ミルチャは声を上げて泣き出す。「俺を見ろ。なぜ泣くんだ?」。父が冷蔵庫のドアを閉めに動いたので、ミルチャはシンクの方に逃げるが、その時、テーブルの上に置いてあった料理の載った皿を床に落としてしまう。皿は割れ、それとともに 泣き声も大きくなる。「すぐに掃除し、泣き止め!」。しかし、泣き声はますます激しくなる。「聞こえんのか? 泣くな!」「なぜ、泣いてるんだ? 説明しろ!」。ミルチャが遂に口を開く。「悪いこと したから」。「何を?」。「悪いこと」。「何だ? 何をした?」。「アレックスを製粉所に隠した」(2枚目の写真)。「誰?」。「アレックスだよ。製粉所に隠したら、後から砂利で埋められちゃった。みんな僕が悪いんだ」。何を思ったのか、この “TV三昧で、息子のことなど気にもかけない” 父親は、いきなりミルチャの頬を引っ叩く(3枚目の写真)。「いつだ?」。「僕が捻挫した日」。「製粉所で何をしてた?」。「写真を撮ってただけ」。「何の写真?」。「コンテストの」〔嘘〕。「“隠した” って、どういう意味だ?」。「トゥアデル〔グラニタの店の主人〕が落とし戸を閉めちゃった」。「トゥアデルが、そこで何してたんだ?」。「他の人と一緒だった」。「お前は、どこにいた?」。「地下室」。「そんなとこで、何してたんだ?」。ミルチャは泣くだけ。「彼は、自分で逃げ出せなかったのか?」。「ううん、できなかった」。「そいつは、誰なんだ? なんで友達になんかなった?」。「ブカレストから来た子だよ」。自分では何もできない “役立たず” の父親は、責任を放棄し、「今夜、お母さんに全部話せ」と言い、床の掃除をするよう命じて出て行く。1人キッチンに残ったミルチャは、泣き続ける。

夜になり、母が帰宅する。ミルチャは、パジャマ姿でそれを見ているが、打ち明ける勇気が出ない(1枚目の写真)。夜の間、父は またも責任を放棄。妻に対して問題があったことも話さず、息子に対して母への告白を再度指示することもなかった。朝食の席でも、ミルチャは何も食べず、下を向いたまま。急いでいる母は、夫に、「戻ってから、洗うわ」と言う〔食器を洗っている暇すらない〕。母は、出かける用意をしながら、「今日は、何するの?」とミルチャに話しかける。さらに、「チェチリアの所〔グラニタの店〕でガラス板を買ってから、広場で日食を見るの?」と訊く。「そうだ、ガラス板が要るね」。「どうしたの、忘れちゃったの? ガラス板を忘れたら、楽しめないわよ」〔国立天文台のサイトでは、「すすをつけたガラス板を使う」 ことも ✖ とされている〕。こんな瀬戸際になり、父は、ようやく、「まだ話してないのか?」とミルチャに訊く。母は、「何を話すの?」と尋ねる(2枚目の写真)。しかし、ミルチャは急に席を立つ。父は、「どこに行く? ミルチャ、戻れ!」と怒鳴る。母:「怒鳴らないで」。「誰かが怒鳴ってやらんとな」。さらに、「あいつが何をやらかしたか、話すのを聞いてやれ」と言うが、なぜ昨晩それを言わなかったのか? ミルチャは、部屋に閉じ籠って鍵をかけてしまい、母が、「開けなさい」と言っても何もしない(3枚目の写真)。そこで、「日食が終わったら、すぐ家に帰りなさい。そして、私が帰宅したら、話し合いましょ」と言い、時間がないの出かける。息子のことなど真剣に考えもしない父親と、多忙な母親に挟まれ、ミルチャは告白の機会を逃してしまう。

午後になり、日食が始まる。人々が外に出て、空を見上げる中、ミルチャは日食など見向きもせずに歩く。そして、警察署に入って行く(1枚目の写真、矢印。左端では署員が全員外に出て日食を見ている)。誰もいない署内に入ったミルチャは、受付けの前のイスに座り、ひたすら断罪の時を待つ(2枚目の写真、矢印は証拠の写真)。それにしても、本当にアレックスは埋められてしまったのだろうか? 中を確認もせずに砂利を入れるとは、とても思えないのだが〔中を見ないと、どのくらいの砂利が必要か分からない〕。もし救出されていれば、ミルチャの “自首” は、単なる笑い話で終わるだろう。それを期待したい。

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